生きられる社会へ:生活保護の今 厚労省の生活保護費削減案 「最低生活ライン」崩壊の恐れ

 3年間で最大10%という生活保護費削減案を厚生労働省が打ち出している。生活保護低所得者を対象とするさまざまな制度の指標になっているため、今は受給せずに耐えている世帯や子育て世帯を直撃する恐れがある。【中村かさね】

 ◇他制度に強い影響 「貧困の連鎖」助長も

 生活保護を受給していない人には無関係と思われがちな生活保護基準は、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」の指標となっている。

 最低賃金や、住民税が非課税となる所得基準、経済的に苦しい家庭に小中学生の給食費などを助成する就学援助制度は、生活保護基準額を下回らないよう定められている。また国民健康保険料や医療費、認可保育所の保育料の減免措置は、住民税の非課税基準の限度額と連動している。

 住民税の非課税世帯は全国で推計3100万人、就学援助利用者は約156万人に上る。生活保護基準の引き下げは私たちの最低生活ラインの引き下げに直結する。専門家は「貧困の連鎖が拡大する恐れがある」と指摘する。

 夫と、小学生から21歳の子ども5人と暮らす東京都内のパートの女性(44)は生活保護は受けていないが、基準額引き下げで就学援助を受けられなくなることを心配する。

 会社員の夫と共働きで月収約40万円。育ち盛りの子どもたちを抱えた生活は常にぎりぎりだ。就学援助費は申請後に振り込まれるため、中学3年の双子の修学旅行や高校進学準備の出費が重なった昨年は、消費者金融でお金を借りてしのいだ。

 食費や光熱費を切り詰め、家族旅行も10年以上行っていない。習い事がない子どもたちにせめて学校の部活動は経験させてやりたかったが、就学援助の対象とならない部費が支払えないためあきらめた。「就学援助がなくなったらどう暮らせばいいのか。これ以上は切り詰められない」

 さいたま市で学習支援事業を行うNPO法人「さいたまユースサポートネット」の青砥恭(あおとやすし)代表は「収入が増えたわけではないのに就学援助から外れる世帯が増えれば、進学をあきらめるなど教育の機会が奪われる子どもが増える。貧困の世代間連鎖を助長することになる」と心配する。

 青砥さんが10年、埼玉県内の2中学校で行った進路調査では、就職者全員▽通信制高校への進学者全員▽職業高定時制高への進学者の半数以上−−が就学援助や生活保護を受給している世帯の子どもだった。公立の普通高に進んだ生徒では14・4%に過ぎず、家庭の経済状況が生徒の進路に影響する現実が浮き彫りになった。

田村憲久厚労相は他制度への影響を和らげる意向を示しているが、就学援助の財源は市区町村の予算。利用条件や補助対象は自治体で違い、格差も大きい。文部科学省の担当者は「国から『こうしろ』と指示することはできない」と話す。

 生活保護費削減の理由として、受給世帯の保護費が低所得者層の収入を上回って見える逆転現象があるが、そもそも生活保護が必要な人に十分に届いているわけではない。

 関東地方の政令指定都市に中学2年の長女と暮らす女性(43)は、年収約130万円ながら生活保護を受給していない。09年にうつ病が悪化して働けなくなったが、在職時の貯金が残っているので受給が認められないためだ。今は就学援助を利用して貯金を取り崩しながら生活する。発達障害を抱える娘の将来を思うと不安だという。

 「私の不安が娘に伝わってしまう。『大学に行きたい、美術を勉強したい』と夢を持つ娘のために、選択肢は広く用意してあげたいけれど……」


毎日新聞 2013年03月26日 東京朝刊


 貧困をなくさなくてはならない最大の理由は、貧困は連鎖し階層を固定化するからである。
 人は親を選んで生まれてくることは出来ない。たまたま貧困家庭に生まれてきたことで受けられる教育に格差ができ、それがほぼそのまま雇用や収入に直結する。しばしば「個々人の成功はその人の努力の成果が報われたことだ」と言われるが、その成功はその人だけの努力ではなくその人の家庭環境 ― すなわち親 ― をはじめ多くの人の陰の支えがあってのことではないのか。《何かを得れば得るほど、それを得たのは自分の実力だと思い込みたくな》る*1気持ちは分からないわけではないが、その錯覚がしばしば「貧困者=努力しない人、貧しさに安住している人」というような一方的な思い込みを生み、最近では生活保護受給者に対するバッシングに繋がっているのではないか。
 家庭環境による格差は教育の機会均等や公正な競争の機会などは虚構に過ぎないし、それを是正する制度 ― 例えば、高校や大学等高等教育における学費の無料化や奨学金制度の充実等 ― がなければ格差は世代を重ねるごとに広がっていく。しかし、このような機会均等を実現する制度も保守派の政治家や評論家は、すでに述べたような錯覚にとらわれているので、高校の授業料無料化など不要だと主張する。*2自分たちの恵まれた家庭環境や格差に胡座をかいて社会的な地位を築いたことにうしろめたさを感じる謙虚さはないのだろうか。
 上記の記事に書かれているような低所得層の苦悩も保守派の政治家や評論家から見れば、努力の足らない人間にしか見えないのであろう。しかし、日本の実態は産業の空洞化による雇用の減少や円高による労働賃金の切り下げと労働者の階層化(正社員、非正規社員派遣労働者など)を生じさせ、働いても一家4〜5人の家族を養える状況でなくなっている。大企業の正社員や高級官僚など身分と収入が保障されている人達は、それが多くの非正規や派遣労働者の低賃金で成り立っていることを理解すべきであろう。そして、このような不公正な格差を生む仕組みが日本の社会に存在する以上、それを社会保障で是正するのは当然ではないか。生活保護制度はその社会保障の一つで貧困者の生活水準を必要最小限度に支援する制度である。

 

 

*1:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090101

*2:お笑い芸人の母親が生活保護を受給していることを「不正」であるかのように騒ぎ立てこの度の生活保護基準引き下げに多大な貢献をした片山さつきは「朝まで生テレビ」で「教育費などは各家庭で責任を持つもので(民主党が提案した)高校授業料無料化などの制度化など不要との発言をしていた。